フシチョウ・・・・きゅうぞうの部屋
日々のできごと、好きなもの、好きなひと、 そして、病気のことなどを綴っていこうと思っています。。   
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聖なる泉②
     今日は「聖なる泉①」の続きです。
     ご一読いただければ幸いに存じます。

   ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

     「丁度その時、わたしの村に雨が降らず、
     かんばつ、日照りが続き農作物が枯れ始めていたのです。
     神の怒りに触れたのだと村人が騒ぎ始め、
     これから、もっと大きな災いにのみ込まれるのではないかと、皆が恐れたのです。
     わたしが暮らしていた村ではそのような時、チャクモール像の上で
     人身御供や、心臓を供え
     神に怒りを鎮めていただこうと儀式を執り行うのが通例となっていたのです。

     そしてもうひとつ・・・・セノーテと呼ばれる聖なる泉があるのですが、
     その泉にも生贄として14才の汚れなき少女が投げ込まれていたのです。

     わたしは17才となっていましたが、
     ブイレブとの恋を許さぬ許婚が、その泉への生贄にわたしの名を挙げたのです。
     村の長も、自分の決めた相手ではなく
     ブイレブを選んだわたしを許してはくれませんでした。
     僅かに、そのような心の卑しい女を神に捧げるとはいかがなものかと、
     反対するものもいたけれど、
     村の長は有無を言わさず自分の考えを押し切ったのです。

     わたしは、長のドッヘの娘だったのです。」

     ここで、このトンセノイと名乗る少女は、深く息を吐き、
     悲しい眼をわたしに向け、またもや語り始めたのです。

     「父は、この村の、揺るぎない絆を乱してはならないと、
      わたしを聖なる泉の生贄へ、
      そして、ブイレブの心臓をチャクモール像へお供えすることとなったのです。

      その頃は、わたしたち人間の命は神に捧げることが尊く、
      生贄にされる者は敬われていたのです。
      でも、許婚や、その身内による怒りの矛先が
      わたしたちに向かったのは周知の事実だったのです。」

     わたしは、その彼女の話に時が経つのも忘れ、聞き入っていたのだ。

     しかし、次の瞬間・・・・、
     その少女の魂がわたしの身体へと入り込み、
     セノーテと称される泉へと投げ込まれる正にその映像を
     わたしの目前に映し出したのだ。
     
     その場には、許婚や村人が佇み、そして、恐ろしい形相で
     わたしを、いや、少女を睨んでいたのです。
     その傍らで、ブイレブが何かしきりに叫んでいたようだった。

     「く、苦しい・・・・。」
     もがけばモガクほど、水が口中や鼻の中へと襲ってくる、
     ますます苦しさは増し、
     わたしは、気が遠くなっていくのが手に取るように分かった。

     息絶えようとしたその刹那、
     わたしを掻き抱き、優しく口づけをしてきた者がいた。
     独りで、深いふかい暗闇の底に沈んでいくのだと
     悲しい想いでいたのです。

     ホンの一瞬、力強い澄んだ瞳がわたしを捉え、
     「ごめんよ、トンセノイ・・・・。」と、
     口元が動いたように感じたのは錯覚であったろうか・・・・。

                       

     体を力強く揺すられ、頬を打たれ、
     「大丈夫ですか・・・・。」と、何度もなんどもわたしの名を呼ぶ人がいた。

     「ぐふぇ、ううっく・・・はあはあはぁ・・・・・。」と、
     苦しさの中で水を吐き出すように我に返ったわたしは、

     何故か、心が温かくなり、
     やっと知ることが出来た満足感から大きな声を張り上げ、
     子供のように咽び泣いていた。

     助け起こしてくれた学芸員も親友のみっちゃんも
     周りの人たちも、何が何だか解らず、戸惑い呆れていた。

     わたしが泣いている間、少女もわたしと一緒に泣いていた。

     そして、トンセノイは呟いた・・・・。
     「ラブ・・・、
      わたしと共に身を投げ出したのはあなただったのね。
      ずっとずっと、長きに渡りブイレブだと信じてた。
      でも、何故か心は満たされず、光りに手をふれることができなかった。
      今は知ることが出来た喜びで胸がいっぱいです・・・。
      
      わたしに体を貸して下さたあなた、感謝しています。
      あなたにも愛するべき人が現れますよう心から祈っています。」

      わたしは許婚の名前を聞いてはいない。
      でも、きっと彼だったのだろうと思う。
      子供の時分から共に暮らしていたのだから・・・・・、
      ずっと変わらぬ愛を誓っていたのだろうから・・・、
      つい人間は身近にいる者の大切さを忘れがちだ。

      「みっちゃん、いつもありがとね。」
      わたしの言葉に困惑しながらも、
      涙でグチャグチャに化粧が剥げ落ちたわたしの顔を
      まじまじと見ては、プッと噴出した。

      「もう、心配したんだからね。」と、みっちゃんはまた噴出した。
      それにつられるかのように会場中が笑いの渦と化していった。

      学芸員の方や館の皆さまに、ご迷惑をおかけしましたと
      深々と頭を下げ、わたしたちは博物館を後にした。

      そして、一本の桜の前に赴いたその時、
      蕾だった筈の桜の花びらが、瞬く間に咲き誇り、光り輝いた。

      そして、泉で共に沈んでいった青年とトンセノイが
      もう二度と離れまいと、お互いの手を固く握り
      わたしに微笑みかけていた。

      そのふたりの姿が消えた瞬間、
      桜の花びらがひらひらと舞い踊るかのように、上空に昇っていったのです。

     
                      the end


      拙い文章に、最後まで目を通して下さり、ありがとうございました。
      陰湿な、聖なる泉セノーテにも、
      悲恋ではあるけれど、こういう物語が存在したと信じたい・・・。
      

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